広島。

俊ちゃんから再就職して、広島に行くことになったとメールが来たのが先月。
あたしも引っ越しを考えていたから、同じ日に引っ越そうと思った。

彼は大阪から広島へ。あたしは東京から横浜へ。
少し南下しても、距離の離れ方を考えたら焼石に水なのにね。

元々500キロ離れているんだし、いつも離れ離れなんだから、日常にしても何も変わることが無いのに、無駄な抵抗みたいなことをして。

たぶん今でもかすかに片想い。


年末に急に遠出したくなって、長距離ドライブしたくなって、そのままレンタカー屋さんで車を借りて。
どこに行こうと思ったときに、広島まで行ってみようと思った。


遠かった。2日間で走行距離が1800キロ超えたもの。

一度東京に戻って、今度は大晦日に新幹線で行った。
ちょうど年越しには間に合った。

毎日俊ちゃんの匂いの中で暮らして。部屋で一人でまったりして。
広島の街を散歩して、美味しいものを食べて。


でも戻らない。あの頃の気持ちも戻ってくれないし、そういう風に愛し愛されることはできなくて。
それが哀しくて、でも収められていくようで。


彼の唯一の休日、ドライブして行った厳島神社は綺麗だった。
何気ないこと一つ一つがやっぱり大事だった。
毎晩それぞれ淹れて飲むコーヒーと紅茶にほっとした。

ほとんど俊ちゃんは仕事でいなかったけれど、ちょっとの間一緒に暮らすことができた。

いまさら何を言っても現実は変わってくれない。余計なことは言わずに静かに過ごした。


広島に着いたときは、何をしに来たのか自分でもわかっていなかった。
彼を愛し続けたいのか、それとも粗探しでもして諦めたいのかすらわからずに、ひたすら運転して着いてしまった。

一緒にいて、いろんなことがわかった。でも予想外なことは無かったと思う。


みんないつか死んでしまって何も残らないのだから、高いものはいらないのだった。
そんなことのために、自分の勝手のために、大事なものを捨ててしまった。
それがものすごくわかったから。認めざるを得なかったから。いろいろ考えて差っぴいて考えたとしても。


彼は相変わらず愛すべき人だった。あたしにとって、ひとつの世界だった。
根本的には何も変わってない。変わってくれない。嫌いになれるわけなかった。
自分の愚かさを呪いたくなる。



横浜に帰ってきて、自分の戦場はここなんだと思った。
彼のPCで偶然見つけてしまった彼の日記を読んで、彼が考えてくれていたことを今更知った。


こういう道を選んだ以上は、それを全うしなきゃいけない。


幸せにならなきゃいけない、間違っていなかったと思い込もうとしてたときは辛かった。無理してた。
それが崩壊してしまって、間違ってたって思ったときも辛かった。

でも今、それをさらに越えて、死ぬわけにいかないんだと知った。
あたしが生き続けなければ、少しでも幸せにならなければ、彼は安心できない。
彼をこれ以上苦しめたくはない。悲しませたくない。そう思ったから。


彼に会いに行って、見えたことはたくさんあった。知ることができたこともあった。
良かったことはきっとたくさんあった。

それでも会いに行っちゃいけなかったのかもしれないとも思う。
もう今のあたしは中途半端だから。悔しいくらいに。