朝の池袋。

昨日の朝3時半に家を出て、タクシーで前彼の家に急いだ。
風邪の悪化よりも、精神的なものの方が重症だったから。
池袋まで飛ばすタクシーの中で夜が明けていって、あたしが生まれ育った街も通って、そうしてるうちに気分が良くなった。着いた頃には、前彼が予想と違うって言ったくらいに元気。


1年半ぶりくらいかな。久々に会った彼は髭が生えててびっくりした。
会わない間に起きたことをお互いに話して。


昔、最後の頃は嫌だったらしい。デリヘルみたいになってたから。
なんだかあたしは忙しくて時間が無くて、毎回気まぐれに会いに行っては彼の部屋で寝るだけだった。その後は終電かタクシーで帰って。その繰り返し。
もう付き合ってはいなかったし、ズルズルしてたといえばズルズルしてた。でも、肉体的・精神的にボロボロになっても、彼のところに行けばちゃんとあたしは充電されてた。彼の部屋を出る頃には疲れは嘘のように吹き飛んで、力が湧いてくるようだった。


どのみちその先付き合っていくことが無いのは決めていたことだし、自分が納得するまで、そして飽きてしまうまで知って、消耗してしまいたかった。そのために彼の元に通い続けた。


久々に同じベッドに横になって。欲情せずにあたしを抱き枕にする彼に安心もしたけれど、つまらなくなって仕掛けた。喘ぎだす彼が面白くて滑稽で。
結局あたしを抱こうとする彼は、昔と何も変わっていなくてくだらなかった。何も進歩してないなぁ、こいつは。と思いながら好きにさせていた。


その怠惰さが、いい加減さが、隙が、彼らしくて。どうでもいいダメ男のまま変わりなくて、しっくりきた。緩いというか。


付き合ってる女よりも、目の前に餌をちらつかせると快楽を求めてしまう彼。裏切らせることなんて簡単で。
今の彼女は大阪らしい。元風俗嬢。話を聞いてると、誰にどのくらい惚れ込んでたかくらいはすぐわかる。今の彼女にそんなに入れ込んでいないのは明白。わかりやすい奴。


昔、寝ることだけ与えていればいいと思ってた。でも、それはあたしの思い違い。彼は体だけじゃなくて、愛されたかったのね。普通の恋人のような関係が欲しかったみたいで。体だけでいいだろうっていうのは、あたしの思い込みだった。
どのみち捨てることもわかっていたから、情などそれ以上足したくはなかった。だから余計な思い出は作らないようにしていたような気がする。
きっと彼じゃなくて、あたしが愛がいらない関係を望んだんだ。それがようやくわかった。あたしが冷めてた。
今さらそんなことがわかってどうなるわけでもないけれど。


思い込みって強い。
相手が自分を愛してくれている、自分は相手を愛している、いつも想ってもらってて申し訳ない、ありがとうっていう気持ちを持ち続けていたら、うまくやっていけるんだろうな、と。自分が想うよりも相手に愛されていると信じることができるなら、なおさら安定して。
俊ちゃんとあたしがうまくやっていけていたのは、それをお互いが無邪気に信じていたから。
そして、いまだにあたしは俊ちゃんがいい人だと思っていて、いい男だと思っていて、誠実だってわかってる。


「遊びだしたら、あなた戻らないでしょ。」って言う前彼の言葉に、そうだなぁと思うあたし。さすがに付き合ってただけあって、阿吽の呼吸っていうのか、すぐにいろんなことがわかってしまう。


面倒になって、途中で彼を放置して寝たフリをした。
諦めてシャワーを浴びに行った彼を、シャワーをかけてお湯で洗ってやった。
部屋を出るときに、ベッドで眠っている彼を一瞬見やってから出てきた。もう二度と会わないかもねって思いながら。


外は暑かった。どうしてだかわからないけれど、久しぶりに充電された自分を感じた。バカバカしすぎて、一体何やってるんだろうと思いながら学校へ向かった。