新しい香水。

どうしようもないんだって、気づく。
というか、わかってた。ずっと。


あの香水が、あの匂いが欲しくて、探した。
渋谷をウロウロ。結局、オーダーのところの人が探してくれて、吉祥寺へ。
手に入れること。欲望の消化。


香水を探しながら、しまったと思った。
同じ物があっても、体温によって、体臭によって、香りが違ってきてしまうっていうこと。
自分の愚かさを呪う。でも、同じ香水、同じ音楽に新しい記憶を重ねれば、記憶を塗り替えた上に、あたしは彼を取り込んで生きていける。
こんなにごちゃごちゃ考えたって、本当はもっと単純に、彼をそばに感じたかったから。

ただそれだけなんだけれど。


頭から彼が離れない。離したくない。
思い出し続けていないと、無くなってしまいそうで。
ずっと繰り返してる。思い返せば思い返すほど、記憶は形を変えていってしまうのに。


気がつくと、右肩に左手をやっている。痛む。
そのたびに忠誠を誓ってるみたいだ。
今のあたしには、この傷しか残されてない。
治癒していくのが、こんなに疎ましいなんて。


あああ、あたしは今恋をしてるらしい。バリバリに。
ええい、認めてしまえ。
あっさり記憶にして、全部癒えてしまえば、当初の目的は達成されるんだけど。
なんでこうなったんだろ。


一時の気持ちなら、朝になれば消えると思ってた。
朝、確かにすっきりした感じだったのに。


とにかく、香水を嫌というほど浴びて、あたしは元気に暮らす。
今日はヨガもやってきたし、少し泳いだし、料理だってちゃんと作れるようにしたいし。


あたしは生きてるよ。ここでちゃんと生きてるよ。
弱気にならないで信じていなくちゃ、もう会えなくなりそうで。
信じていよう、と。覚悟し直したんだし、彼も同じように思ってくれていると思いたい。